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データセンターの革新:計測精度と優れたエネルギー効率の関わり

Keith Dunnavant(Munters)、Anu Kätkä(ヴァイサラ)

Keith Dunnavant(Munters)、Anu Kätkä(ヴァイサラ)

屋内/室内空気質
産業計測

この記事では、MuntersのKeith Dunnavant氏とヴァイサラのAnu Kätkäが、データセンター部門の最近のトレンドについて説明し、HVAC計測がエネルギー効率に与える影響について解説します。エネルギーコストが急増し、各国政府では温室効果ガス排出量の削減方法を見つけることが急務とされている中、世界的にデータセンターのエネルギー効率に注目が集まっています。

この記事の著者はいずれも、データセンターのエネルギー管理に関して長年の経験と専門知識があります。Muntersは、データセンターなどのミッションクリティカルなプロセス向けの、エネルギー効率が高く持続可能な環境制御ソリューションの分野で世界を牽引しています。ヴァイサラは、気象観測および環境/産業計測分野における世界的なリーディング企業です。

データセンターのエネルギー使用

指標としての「電力使用効率」(PUE)

世界全体の電力需要は約20,000テラワット時です。ICT(情報通信技術)部門の使用量は2,000テラワット時、データセンターの使用量は約200テラワット時であり、これは全体の1%に相当します。つまり、データセンターは、ほとんどの国においてエネルギー消費のかなりの部分を占めています。世界全体でデータセンターには1,800万台を超えるサーバーがあると推定されています。これらのIT機器に関しては、機器自体の電力要件に加え、冷却装置、配電装置、消火設備、無停電電源装置、発電機などのサポートインフラも必要となります。

データセンターのエネルギー効率を比較する場合、「電力使用効率」(PUE)を指標として使用するのが一般的です。この指標は、データセンターでITのみに使用されるエネルギーに対するデータセンターの総エネルギー消費量の比率として定義されます。理想的なPUEは1です。これは、すべてのエネルギーがITに費やされ、サポートインフラによってエネルギーが一切消費されないことを意味します。

したがって、PUEをできる限り抑えるには、冷却や配電などのサポートインフラの電力消費を削減することを目指す必要があります。従来型のレガシーデータセンターでは一般的なPUEは約2ですが、大規模なハイパースケールデータセンターでは1.2を下回ることがあります。2020年の全世界の平均値は約1.67でした。これは、平均で総エネルギー使用量の40%が非IT消費であることを意味します。ただし、PUEは比率であるため、エネルギーの総消費量についての情報は得られません。つまり、IT機器が冷却システムに比べて大量のエネルギーを消費している場合には、PUEが良好であるように見えます。したがって、総電力消費量やIT機器の効率とライフサイクルに関する計測も重要になります。さらに、環境に関する観点から、電気の発電方法、水の消費量(発電と冷却設備の両方)、廃熱利用の有無にも考慮する必要があります。

PUEの概念は、2006年にThe Green Gridによって最初に案出され、2016年にISO標準として公開されました。The Green Gridは、データセンター運営者、クラウドプロバイダー、技術および機器サプライヤー、施設設計者、エンドユーザーで構成されるオープンな業界コンソーシアムであり、データセンターエコシステムのエネルギーとリソースの効率化のためにグローバルに活動しており、炭素排出量の最小化に取り組んでいます。

PUEは現在も、データセンターのエネルギー効率を計算するにあたって最も一般的な方法です。たとえば、Muntersは、各プロジェクトのピーク時と年間ベースの両方でPUEを評価しています。PUEの計算では、IT負荷と冷却負荷のみを考慮しています。これは、部分的PUE(pPUE)または機械的PUE(PUEM)と呼ばれます。ピーク時のpPUEは、電気技師が最大負荷を確認してバックアップ発電機の規模を決定するために使用されます。年換算したpPUEは、通常の1年間に消費される電力量を評価し、他の冷却オプションと比較するために使用されます。PUEは完璧なツールではないかもしれませんが、WUE(水使用効率)やCUE(二酸化炭素使用効率)などの指標や、PUEの妥当性を高めるSPUE(サーバーPUE)やTUE(トータルPUE)などのアプローチを通じて、ますます広く活用されています。

データセンターのトレンド

過去10年間に、効率的なハイパースケールデータセンターがデータセンターの総エネルギー消費量に占める割合は相対的に増加しましたが、効率の低い従来型のデータセンターの多くは閉鎖されました。その結果、現時点では総エネルギー消費量の劇的な増加は見られません。新しく建設されたこれらのハイパースケールデータセンターは、効率性を重視して設計されています。しかし、AI、機械学習、自動化、自動運転車などの多くの新しいトレンドにより、情報サービスやコンピューター集約型アプリケーションに対する需要が高まることはわかっています。そのため、データセンターのエネルギー需要が増加することを想定したうえで、どの程度増加するかが議論の対象となっています。最善のシナリオでは、現在の需要と比較して、世界のデータセンターのエネルギー消費量は2030年までに3倍に増加すると仮定されていますが、実際には8倍まで増加する可能性が高いと考えられています。こうしたエネルギー消費の予測では、ITインフラと非ITインフラの両方が対象になっています。IT以外のエネルギー消費の大部分は、サーバーの冷却、より正確にはサーバーからの熱の除去にかかるものであり、冷却コストだけでも、年間総エネルギーコストに占める割合は最大25%を優に超える可能性があります。冷却は、IT機能を維持するためにもちろん必要であり、建物のシステムを適切に設計し、効果的に運用することによって最適化できます。

最近の重要なトレンドは、サーバーラックの電力密度の増加であり、30~40キロワット以上に達する場合もあります。データセンター専門家のための業界団体であるAFCOMが実施した調査をまとめた『2020 State of the Data Center Report』では、ラックあたりの平均ラック密度が、2019年の7.3kW、2018年の7.2kWから8.2kWに急増したことが報告されています。回答者の約68%は、過去3年間でラック密度が増加したと報告しています。

クラウドコンピューティングへの移行は、ハイパースケールデータセンターやコロケーションデータセンターの開発を確実に後押ししています。これまでは、1つの銀行、航空会社、または大学のニーズを満たすために1メガワット規模のデータセンターが設計されていました。しかし現在、こうした機関や企業の多くは、ハイパースケーラーやコロケーションデータセンター施設内のクラウドサービスに移行しています。このような需要の高まりの結果として、データ速度に対する要件がより厳しくなっています。当然ながら、これらのデータセンターはすべてミッションクリティカルなアプリケーションにサービスを提供しているため、インフラの信頼性が非常に重要です。

また、レイテンシ(遅延)を低減するためのエッジデータセンターに注目が集まっているほか、高性能チップに対応しつつエネルギー使用量を削減するために液体冷却を採用することにも関心が寄せられています。

温度と湿度の制御

空冷式データセンターの冷却の場合、エネルギー効率に関する重要な考慮事項の1つは、暖気通路と冷気通路の封じ込めです。残念ながら、多くのレガシーデータセンターでは封じ込めの管理がまだ不十分であり、エネルギー効率の低下につながっています。一方、新型のデータセンターの構造では、封じ込めが非常に重要視されている傾向があり、パフォーマンスに大きく寄与しています。

多くの場合、最適な供給空気温度は24°C~25.5°C です。ただし、非常に重要になるのはデルタT、つまり、暖気通路と冷気通路の温度差です。通常、デルタTは約10~12°Cですが、14°Cがデータセンターの設計における一般的な目標値です。デルタTが増加すると、冷却システムに必要なファンモーターのエネルギー使用量が削減されるとともに、熱除去戦略に外気冷房を取り入れる効果が高まるという2つの利点が得られます。

データセンターのさまざまな温度設定

外気冷房とは、外気を利用してデータセンターの熱除去を部分的に促進するプロセスです。外気冷房を実現するには、外気を実際に冷却システムに取り込み、(適切にろ過した後に)サーバーに送る直接的な方法と、データセンター内で再循環している空気の熱を空気間熱交換器を介して周囲に放出する間接的な方法があります。これにより、コストが削減され、効率と持続可能性が向上します。ただし、効率を維持するには、ろ過による空気側の圧力低下を最小限に抑える必要があります。これを踏まえると、外気を取り込まずにデータセンター内で空気を再循環する場合は、ろ過の必要性も低減または完全に排除できます。

冷却と換気は注意深く制御する必要があり、高効率なファンの設置、建物でのわずかな正圧の維持、建物内の湿度の制御が重要です。たとえば、補給空気システムによって建物空間の露点を十分に低く制御し、冷却コイルによって顕熱に相当する冷却のみを行って、潜熱負荷(空気からの水分の除去)の処理を回避する必要があります。

熱除去システムの総合的な目的は、エネルギー使用量を最小限に抑えながら、IT機器のために最適な状態を維持することです。たとえば、湿度が低いと静電気のリスクが高まり、湿度が高いと結露が発生する可能性があります。どちらの場合も、電気設備や金属機器にとって脅威であり、故障のリスクが上昇したり、耐用年数が短くなったりする原因になります。高い湿度レベルとさまざまな環境内汚染物質が同時発生することで、サーバー内の各種コンポーネントの腐食が促進されることがわかっています。

IT機器から発生する熱を除去して、過熱を避け、故障を防ぐには、冷却が不可欠です。いくつかの研究によると、温度の急激な変化は、高い温度で安定している場合よりも実際にはIT機器にとって有害である可能性があり、その観点からも制御ループが重要になります。

最新のIT機器は通常、従来よりも高い温度で動作させることができます。つまり、吸気温度を上げることができるため、フリークーリングや外気冷房の有効性が高まります。外気は(前述のように)直接的または間接的に屋内の空気を冷却するために利用でき、蒸発冷却または断熱冷却によって外気冷房の効率をさらに高めることができます。これらの省エネ技術は広く導入されており、水を消費しない乾式の熱除去戦略がトレンドとなっています。熱抽出媒体(空気または液体)の温度が上昇すると、データセンターからの廃熱を有効利用できる可能性が高まり、地域の暖房ネットワークなどに使用できます。ヘルシンキの例では、Microsoftと電力会社のFortumが、余熱を回収するプロジェクトで協力しています。そのデータセンターでは、温室効果ガスを一切排出せずに発電した電力を使用し、Fortumは、サーバーの冷却プロセスで生じたクリーンな熱を、地域の暖房システムに接続されている住宅、サービス、および事業所に供給しています。このデータセンターの廃熱リサイクル施設は、この種のものとしては世界最大規模であると考えられます。

正確なモニタリングの重要性

多くの最新式施設では、99.999%の稼働時間が想定されています。これは、年間のダウンタイムがわずか数分であることを意味します。ITインフラで扱うデータとプロセスには重要性と価値が伴うため、このような非常に高いレベルのパフォーマンスが必要とされます。

データセンターを設計する際に重要になる機能として、サーバーに適切な温度を提供することが求められます。これを実現するには、制御システムで正確なセンサを利用できることが必要です。データホールの規模が大きいほど空間温度が変動する可能性が高くなるため、モニタリングがより困難になると考えられます。そのため、すべてのサーバーを確実にモニタリングするには、十分な数の温度センサを用意することが重要です。

Munters、Keith Dunnavant氏

Munters、Keith Dunnavant氏

サーバーの配置場所は、冷却ユニットに近い場合もあれば、遠い場合もあります。また、ラックの最下部に置かれることもあれば、高い場所に置かれることもあります。このため、3次元的なばらつきが生じる可能性があります。また、十分な数のセンサを設置することに加えて、空気の流れと冷却をサーバールーム全体に適切に分散させることも重要です。適切な設計とモニタリングを組み合わせることで、必要な仕様を満たすように空気の流れと冷却を効率的に制御できます。

Muntersは、平均年間エネルギー使用量に対するさまざまな変数の影響を評価するために、3つの異なる場所において3つの異なる制御シナリオで稼働するようにシステムをモデル化しました。それぞれの場所で、ITE(情報処理機器)負荷が1メガワットのデータセンターを想定しています。

  1. 基準設定となるシナリオの設計供給温度は24°Cで、戻り温度は35°C(デルタT=11°C)です。
  2. 2番目のシナリオでは、供給温度と戻り温度を1°C下げました(デルタTを維持)。
  3. 3番目のシナリオでは、戻り温度だけを1°C下げました(デルタTが減少)。

その結果、気候が温暖な場所では、3つのシナリオすべてでエネルギー使用量が低いことが示されました。シナリオ2では、供給温度と戻り温度を1度下げるだけで、エネルギー使用量が1~2%増加することが示されました。シナリオ3の場合に、エネルギー使用量が最も大幅に増加しました。戻り温度を1°C下げる(したがってデルタTも低下する)だけで、3つの場所すべてでエネルギー使用量が8~9%増加しました。温度の小さなずれがもたらすこの大きな影響は、デルタTとセンサ精度の両方の重要性を浮き彫りにしています。

どのような冷却方法を採用しようと、HVACプロセスと屋内条件を信頼できる方法で制御することが非常に重要です。制御ループは計測の正確さに左右されるため、適切な制御を実現するには、データセンターの管理者が常時正確な計測結果を得られる必要があります。このことから、効率的に制御されたHVACプロセスと安定した屋内環境を実現するには、高品質なセンサが欠かせません。ただし、設置時のセンサ仕様は、必ずしも性能の長期的な信頼性を示すものではありません。センサの真の価値は、そのライフサイクル全体で評価する必要があります。メンテナンスが頻繁に必要になるとコストがかさむことが考えられ、また、Muntersのモデルで説明したように、精度のわずかなずれでもエネルギーコストの増大につながる可能性があるためです。

多くの場合、ITインフラ内のデータは非常に価値が高く、ほとんどがミッションクリティカルであるため、低コストのセンサを導入しても、メンテナンスコストが高くついたり、価値の高いデータへのリスクが生じたりしては意味がありません。本当に重要なのは長期的な信頼性であるため、ユーザーは、信頼性の高い計測値を安定的に提供できる耐久性に優れた計測機器を探す必要があります。

厳しい環境に対応した計測技術

計測機器の精度、信頼性、安定性に重点を置くことは、86年以上前の創業以来、ヴァイサラにとって重要なブランド価値となっています。これらの特長は、すべてのヴァイサラ製品で設計要件を構成する基本要素となっています。ヴァイサラのセンサは8年以上にわたって火星で運用されており、NASAの火星探査ローバー「キュリオシティ」や近年のローバー「パーサヴェィアランス」が、さらされている過酷な条件下でも問題のないデータを提供するなど、これらの特長の利点が実証されています。

データセンターの環境は宇宙空間ほど厳しくはありませんが、データセンターが世界中の企業、経済、社会にきわめて重要なサービスを提供していることを考えると、宇宙空間の場合と同様にセンサの信頼性は重要です。

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ヴァイサラの計測技術を搭載した火星探査ローバー

ヴァイサラの計測技術を搭載したNASAの火星探査ローバー

センサの選択に影響を与える要素

1.信頼性

設置時点でのセンサの精度はもちろん重要ですが、センサが長期間にわたって精度を維持し、安定した計測値を提供することが不可欠です。データセンターの価値の高さと、遠隔地に所在することが多い点を考えると、変換器には通常の水準よりもはるかに長い寿命が求められます。したがって、センサのメーカーは、この分野での経験が豊富であることに加え、重要な環境で信頼性の高い計測結果が得られるという定評がある必要があります。トレーサブルな校正証明書は、センサが工場出荷時に正しく動作していたことを保証し、確かな信頼性とは、このようなレベルの精度を長期間維持できることを意味します。

ヴァイサラ、プロダクトマネージャー、Anu Kätkä

ヴァイサラ、プロダクトマネージャー、Anu Kätkä

2.メンテナンス

メンテナンス要件が厳しいセンサは避けるべきです。コストがかかるだけでなく、そのようなセンサは故障のリスクが高いからです。さらに、センサでドリフトが生じたり精度が失われたりすると、既に説明したように、エネルギーコストが膨れ上がる可能性があります。データセンターでは高いレベルの稼働時間を必要としているため、モニタリング機器のメンテナンス作業によってデータセンターの運用が妨げられることがあってはなりません。そのため、交換可能な計測プローブやモジュールを備えたヴァイサラなどの計測機器は有利です。これは特にセンサを取り外してオフラインで校正できるためです。重要な点として、計測プローブやモジュールを交換した場合は、校正証明書も更新することになります。理想的には、計測機器メーカーのツールを使用して現場でメンテナンス作業を行えるべきであり、この作業は定期メンテナンスプログラムの一環として実施する必要があります。

3.持続可能性

センサの観点では、最新技術により、ユーザーは変換器全体を交換したり廃棄したりせずに、センサの計測部分だけをアップグレードできます。これにより、不要な廃棄が避けられます。購入を決定する際には、サプライヤーの環境や持続可能性に関する資格認定を考慮する必要があります。これにより、持続可能性がサプライチェーンに連鎖的に波及し、規模の大小を問わずすべての企業にとって推進力となります。持続可能性は、Muntersとヴァイサラの両社の中核となるものです。たとえば、Muntersは1.5ギガワットを超えるデータセンター冷却装置を世界各地に設置していますが、スウェーデンの年間エネルギー消費量の2%に相当するエネルギーが節約されています。ヴァイサラは最近、Financial Timesによる2022年の気候に関する欧州のリーダー上位5社に選出されました。このリストには、2015年から2020年の間に温室効果ガス排出量を大幅に削減した欧州の企業が挙げられています。

サマリー

データセンターでは、数十億ドルの価値がある重要なデータが処理および保存されるため、電力を大量に消費するサーバーを理想的な温度と湿度状態に維持して、ダウンタイムを防ぐ必要があります。それと同時に、エネルギーコストが急上昇している中で、温室効果ガス排出量の削減、エネルギー効率の向上、エネルギーコストの削減、およびPUE指標の改善に関する差し迫った要求が生じています。このような「困難を極めた状況」では、HVACプロセスの正確な制御と最適化が非常に重要です。

筆者について

Keith Dunnavant氏は、Muntersの販売担当副社長であり、南北アメリカのデータセンター事業を担当しています。Anu Kätkäは、ヴァイサラのプロダクトマネージャーであり、ヴァイサラのHVACおよびデータセンター製品分野をグローバル規模で担当しています。

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