新しい「スマート保安」の時代のオンライン常時監視によるリアルタイム劣化診断
変圧器の経年劣化とメンテナンスの課題
現在、多くの先進国では、変圧器の高経年化に直面しており、国内では、稼働中の変圧器約1万6千台のうち40%以上が設置から30年以上が経過した高経年器です。変圧器は経年劣化と共に故障のリスクが増加するため、故障による深刻な事象の発生を未然に防ぐために、モニタリングやメンテナンスの需要が高まり、洗練された診断技術に期待が寄せられています。
しかし、従来のメンテナンス手法では、手作業で採取した絶縁油のサンプルを分析装置にかけて、劣化生成物(ガス)を確認して変圧器の状態を判断するため、サンプリングや分析のための負担が大きいことも課題となっています。またサンプル分析が実施されない期間に異常が発生している可能性もあります。
株式会社東光高岳での導入ケース
株式会社東光高岳さま(以下東光高岳)は、経年化した変圧器の安全で効率的なモニタリングによる課題解決を実施されている、電力エネルギーの安定的・効率的な流通を支え続けてきた電力インフラのリーディングカンパニーです。電力プラント事業として主に変圧器や開閉装置等の受変電・配電機器を製造されています。
近年では、エネルギー市場を取巻く環境変化を好機ととらえ、保有する技術とデジタルトランスフォーメーション(DX)を同時に推進する取り組みを進めています。
自社の変圧器にヴァイサラ Optimus™ 絶縁油中ガス・水分オンライン監視装置 OPT100を取付け、複数のエンドユーザーの拠点で設置試験を実証中です。
ユーザ価値の最大化にむけて
東光高岳さまでは変圧器ユーザーのメンテナンスの 負担の低減化と、より安定した運用のために、サンプリングにかわる、変圧器劣化診断の方法として劣化時に起こる絶縁油中の水分の変化の自動監視に着目されました。
絶縁紙と油の水分割合を示す水分平衡関係は、絶縁紙の劣化度と油温に応じて変化するため、油温と油中水分量を連続的に精度よく計測することができれば、絶縁紙の劣化度を推定できるのではないかと考えました。その際に、この2つの変数を正確に計測できるヴァイサラのセンサがこの目的を達成するための技術として相応しいと判断されました。
「関連学会の技術報告などで情報を得ていたことや、他社の技術者からもヴァイサラの絶縁油中センサの性能が高く評価されていると聞いていました。実現したかった診断に必要なセンシング機能が盛り込まれているMHT410 オイル内水分水素温度変換器にまず着目しました。」
株式会社東光高岳 戦略技術研究所 技術開発センター 栗原さま
「このMHT410の水分センサは非常に優秀でした。微量の水分を検出し、水分変化にも非常によく追従しました。」
株式会社東光高岳 戦略技術研究所 技術開発センター 出井さま
オンライン常時監視によるリアルタイムの劣化診断
ヴァイサラ Optimus™ 絶縁油中ガス・水分オンライン監視装置OPT100はオイル内水分、水素、温度を計測する製品です。 オンラインモニタリングでは異常が発生した時点で検知が可能です。 OPT100の正確で継続的なモニタリングによるメリットが、従来のオフラインでの変圧器の劣化診断を置き換える決め手になりました。OPT100は、変圧器の絶縁油のラインにセンサを取り付ければすぐに常時計測が開始され、継続的な時間経過とともにデータを計測・分析することができます。リアルタイムで変圧器の状態変化が把握でき、深刻な劣化や異常の予兆をとらえることが可能になります。
「従来の手法では数年に1回ほどしかメンテナンスを行っておらず、そのタイミングでしか状態診断ができません。異常値が発生した時点で、早期に変化に気づくことは、古い変圧器の寿命診断にもつながります。24時間計測するセンサによる状態監視が可能となれば、より適切な更新時期を提案できます。」
株式会社東光高岳 戦略技術研究所 技術開発センター 出井さま
OPT100に搭載された新技術
OPT100では、真空抽出法を使用することで、より完全にガスを分離させることができ、変圧器内の絶縁油中の溶解ガス全体の圧力が非常に低い状態においても計測の信頼性が向上します。また、全種類の抽出ガスが高い真空ガス抽出方法を採用しているため、より正確で信頼性の高い結果が得られます。また、従来絶縁油分析器で使用している固定フィルタと比較し、OPT100では可変フィルタを使用することで赤外線スキャン範囲が拡大します。最終的なガス分析は、より広い波長範囲を使用して収集されているため、より正確に溶解ガスの濃度を算出できます。
「OPT100の油中ガス計測方法は、従来の油中ガス分析結果との整合性が良く、油中ガス量の変化を正確にとらえるので、常時設置に適しています。特に微量のアセチレンが検出できるところが非常に優れています。アセチレンは内部放電 異常時に生成する油中ガスですので、できるだけ微量の段階で検出したい項目です。常時監視装置でこのような高精度の検知ができることに大変驚きました。」
株式会社東光高岳 戦略技術研究所 技術開発センター 出井さま
設置の容易性と耐久性
ヴァイサラOPT100は既設変圧器のサンプリング用のバルブのフランジを利用して取付可能なため、接続のために既設変圧器にバイパスラインを設けるなどの追加加工は一切不要です。また、OPT100はメンテナンスフリーで、交換が必要な消耗品がなく、光学系は密閉され保護されています。ステンレス製のパイプ、IP66クラスのハウジングと磁気駆動式ポンプにより、優れた耐久性があります。また停電などの障害発生時には自己診断によって自動回復できます。
「変圧器は非常に故障が少なく寿命の長い機器なので、セン サにも過度な安定性が要求されがちです。OPT100のメンテナンスフリーは非常にありがたいです。従来、変圧器のメ ンテナンスや運用には多くの労力が必要でしたが、メンテナンスの品質を下げずに、効率化に大きく寄与することは 重要なポイントです。また頻繁な運搬や付け替えなど実施しているにもかかわらず、正常に稼働し安定性が高いと判断しています。」
株式会社東光高岳 戦略技術研究所 技術開発センター 出井さま
「フィールドでの検証では、安定的に稼働しトラブルは発生していません。また突発的な停電などの際にも、復電時には OPT100は自動復帰していました。」
株式会社東光高岳 戦略技術研究所 技術開発センター 栗原さま
「一般企業では、工場の稼働をなかなか止められません。保守担当の方は常に設備運用停止のリスクへの不安をお持ちです。自社の変圧器にOPT100のような常時監視装置を取り付けたいというご要望も多いのです。」
株式会社東光高岳 戦略技術研究所 技術開発センター 栗原さま
新しい「スマート保安」の時代に
設置試験を開始して3年が経過し、東光高岳さまのOPT100運用データや知見も着実に蓄積されてきました。オンラインモニタリングはトレンドを見るために今後は重要な役割を果たすと認識をされています。将来的に計測データをクラウド管理できれば、遠隔監視や運用の実用化も現 実味を帯びてきます。AIと連携した蓄積データの分析は、さらなる精度向上をもたらし、活用の領域をさらに押し広げます。メンテナンスの作業量や費用削減、適切な機器運用、クラウド上での遠隔確認やAI連携など多くのメリットが実現可能になります。最終的に受変電設備の運用の効率面だけでなく、長期安定性への貢献にもつながります。
「メンテナンスの向上と効率化は、お客様の機器運用における安定稼働、効率化、コスト低減に直結しています。またセンシン グによる設備の状態基準診断(CBM:Condition Based Maintenance)、IoTによるコトづくりなどが大きくクローズ アップされる中で、今後電力設備もこの動向が進むことを確信しています。」
株式会社東光高岳 戦略技術研究所 技術開発センター 栗原さま