過酸化水素蒸気による除染用途での湿度計測
二酸化塩素、ホルムアルデヒド、エチレン オキシドなどの一般的に使用される他の 減菌剤と比較して、VH2O2 には、多数の利 点があります。VH2O2 は低温で使用でき、 さまざまな素材に対応していま す。DNA、タンパク質、および膜脂質を酸 化する作用があるため、除染サイクルの 正確な管理と組み合わせることにより、 あらゆる生物学的汚染物質を破壊できま す。過酸化水素(H2O2)には、もう1つの利 点として、水(H2O)と酸素(O2 )に分解さ れるという性質があります。
2H2O2 2H2O+O2
除染の曝気段階が完了すると、除染エリ ア内に有毒な化合物が残らず、除染表面 に化学物質が残留しません。
一般的なVH2O2除染サイクル
VH2O2の除染効果は、H2O2蒸気の濃度、 暴露時間、ガス循環、除染対象生物の種 類などのさまざまな要素に依存します。 適格性評価ステップをすべて実施し、除 染サイクルを検証した後、VH2O2 による除 染を繰り返すことで、満足できる結果が 得られます。
除染は独立した4つのステップに分けるこ とができ、各ステップを注意深く管理およ び監視する必要があります。
- 除湿段階 過酸化水素蒸気は水蒸気とともに環境に 噴射されるため、調整段階の前に除染対 象エリアを除湿する必要があります。除 湿を適切に実施しないと、望ましくない 結露が発生する場合があります。
- 調整段階 この段階では、除染のための適切な条 件が整えられ、VH2O2が環境に噴射さ れます。
- 除染段階 目 標 値は 用 途 によって異 なりま す (例:H2O2 300〜1,200ppm、湿度 50 〜100%)。十分な暴露時間の間、表面と 微生物は致死濃度の過酸化水素蒸気に 暴露されます。
- 曝気段階 H2O2は、通常、触媒コンバーターにより 水蒸気と酸素に分解されます。
相対湿度、相対水分飽和度、 およびVH2O2濃度
水(H2O)と過酸化水素(H2O2 )は、よく 似た分子構造を持ち、どちらも空気中の 湿度と飽和点に影響を与えます。相対湿 度(RH)は、その定義から、特定の温度で 空気中に含まれる水蒸気の量のみを示し ます。そのため、空気に過酸化水素蒸気 が多く含まれていると、相対湿度が100% になる前に結露が発生します。
水蒸気と過酸化水素蒸気の組み合わせに よって、相対水分飽和度(RS)が決まりま す。相対水分飽和度は、水と過酸化水素 蒸気の濃度および空気の温度に左右され ます。温度が高いほど、空気が保持でき る水と過酸化水素蒸気の量が多くなりま す。湿度が低いほど、結露を発生させず に、より多くのH2O分子および H2O2分子 を含めることができます。
標準的な相対湿度センサは、過酸化水素 分子を分解するための保護触媒層を備 えていないため、H2O2蒸気中での使用は 推奨されません。湿度センサは、有害な 濃度の過酸化水素にさらされると、ドリ フトが発生して精度が低下する可能性が あります。センサのドリフト の 程 度 は、H2O2濃度と暴露時間に依存します。 湿度センサは水蒸気用に設計されている ため、過酸化水素蒸気がセンサに強い影 響を与えます。そのため、特にVH2O2濃 度が高い場合、通常の湿度センサの計測 値から算出された相対水分飽和度を使 用すると、大きな計測誤差が生じる場合 があります。
代案として、触媒層を備えた湿度センサ を使用してみましょう。触媒層は、有害な VH2O2を分解してセンサを保護します。 その結果、相対水分飽和度は不明のま ま、センサは相対湿度レベルのみを計測 できます。また、除染中にVH2O2が他の 計測誤差を引き起こす可能性がある点に も注意が必要です。触媒作用で発生した 湿度の一部がセンサで計測され、小さな 正の誤差が生じます。蒸気噴射、流速、フ ィルタ、温度などの要素の影響があるた め、この誤差の大きさを完全に制御する ことはできません。VH2O2によるセンサ の誤差は、分解されたすべてのVH2O2が センサで計測されると仮定することで推 定できます。
たとえば、触媒フィルタでの湿度の最大 誤差影響度は、300ppmのVH2O2 で約 +1%RH、900ppmのVH2O2 で+3%RH (23°Cの場合)です。
実際の除染プロセスを管理するために湿 度を計測のではなく、洗浄サイクル間を管 理するために湿度を計測する用途では、 触媒層を備えた湿度センサが最適です。
これらの湿度センサ機能(非触媒および 触媒)の他にも、両方の技術と付加価値 を組み合わせた別のソリューションがあ ります。ヴァイサラのPEROXCAP®技術 には、両方のタイプの湿度センサが含ま れています。触媒層がある湿度センサと 触媒層がない湿度センサを組み合わせる ことで、個々のセンサの制限を乗り越え ることができます。このようにして、ヴァ イサラのHPP270シリーズのプローブに 含まれるPEROXCAP®センサは、相対湿 度と相対水分飽和度の両方、および VH2O2濃度を正確に計測できます。
ケミカルパージによる安定性の 向上
VH2O2によるセンサのドリフトは、H2O2 濃度、暴露時間、水蒸気量および気温な どさまざまな要素の影響を受けます。暴 露頻度が低い場合、ケミカルパージまた は加温なしの触媒センサに推奨される最 大VH2O2条件は、結露しない環境で 400ppmです。この場合、推奨される合 計暴露時間は、校正間において100時間 です。高濃度のVH2O2が必要な場合や除 染サイクルを頻繁に実施することが想定 される場合は、ケミカルパージ機能を備 えたセンサをお勧めします。
HPP270シリーズのプローブは、加温とケ ミカルパージを標準機能としています。こ れらの機能を備え、高精度のデュアルセ ンサPEROXCAP®技術が組み込まれた プローブは、VH2O2による除染用途に理 想的なソリューションです。HMT330シ リーズ変換器、HMM170 湿度モジュー ル、HMPスマートプローブなど、いくつか のヴァイサラ湿度製品では、ケミカルパー ジをオプションで利用できます。触媒層 を備えた湿度センサでは、ケミカルパー ジ機能を使用すると、定期的な加温によ って触媒層の安定性が向上します。
除染プロセスの目標が、肉眼では見えな い結露状態に到達する場合、プローブに センサ加温用のコンポジットセンサを装 備することをお勧めします。HPP270シ リーズのプローブとケミカルパージ付き湿 度プローブは、結露しない場合と結露し やすい場合の両方のVH2O2除染プロセス に適しています。
概要
VH2O2を使用する用途に適した計 測方法は、具体的な計測内容によ って異なります。蒸気発生装置の 安定性やその他のプロセス要素 によっては、除湿中または洗浄サ イクル間の相対湿度計測だけで 十分な場合があります。一部の用 途では、VH2O2の管理と監視が必 要です。次の表に、相対湿度センサ (HUMICAP®)、触媒層を備えた 相対湿度センサ(触媒センサであ る HUMICAP®)、およびこれら2 つのセンサを1つのプローブに組み 合わせたもの(PEROXCAP®)の 比較を示します。
| HUMICAP® | HUMICAP®触媒付き | PEROXCAP® | |
| 説明 | さまざまな用途でのRH計測用。 | VH2O2を使用する環境でのRH計 測用。 | RHとVH2O2のppm計測用。 |
| 通常動作時の相対湿 度(RH%)計測 | 非推奨です。 正確ですが、VH2O2による除染 サイクルには向きません。 | 正確な相対湿度値が得られます。 | 正確な相対湿度値が得られます。 |
| 除染中の相対湿度 (RH%)計測 | 不正確です。 VH2O2によるセンサドリフトが 発生する場合があります。 | 正確ですが、触媒層からの余分 なH2Oにより、追加誤差が生じ る可能性があります。 | 正確な相対湿度値が得られます。 |
| 除染中の相対水分飽 和度(RS%)計測 | 非推奨です。 | 非推奨です。H2O2が触媒作用に より分解され、残留したH2Oが 計測されます。 | 正確な相対水分飽和度の値が得 られます。 |
| 除染中のH2O2蒸気 の計測 | 使用できません。 | 使用できません。 | 推奨します。H2O2蒸気のppm は、ヴァイサラの独自アルゴリ ズムで計算されます。 |
| 長期耐久性 | 結露しやすいVH2O2環境では、 過度のドリフトが発生します。 | 結露しやすい環境でVH2O2に対 する耐性があります。 | 結露しやすい環境でVH2O2に対 する耐性があります。 |
| センサの加温およ びケミカルパージ | オプションのセンサパージによ り、結露に対する保護が強化さ れます。 | オプションのセンサパージによ り、結露に対する保護が強化さ れます。 | PEROXCAP®の標準機能です。 |
| 推奨製品 |
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