焼酎蒸溜工程に導入されたヴァイサラの屈折率技術

A view of the Nikka Whiskey distillery
Japan
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液体計測

ニッカウヰスキー株式会社はジャパニーズウィスキーの父と呼ばれる創業者、竹鶴政孝氏がウィスキー造りを学んだスコットランドに近い気候であることから北海道余市に1934年設立されました。この地名が現在のブランド名として受け継がれ、余市はジャパニーズウィスキーの代表格として海外でも人気を誇っています。

繊細な焼酎の風味:杜氏の熟練の技で引き継がれてきたプロセス

ニッカウヰスキー門司工場では複数の本格麦焼酎が製造されています。 焼酎には「乙類」と「甲類」の2種類があり、一般的に単式蒸溜方式で作った「乙類焼酎」は原料の風味や香味を活かした味わいが特徴です。また、連続式蒸溜方式の「甲類焼酎」は素朴な味わいで知られており、両蒸溜方式はもともとウイスキー造りなどに利用された製造法です。

自社の乙類焼酎の華やかな香りは酵母が生成するエステル(香り成分)が主になっております。 製麹から蒸溜まで気の抜ける作 業は1つもありません。特に発酵温度管理は発酵状態に合わせて毎日温度を制御し酵母が健全に発酵しやすい環境を整えています。」 ニッカウヰスキー門司工場高橋伊織様

高橋様がおっしゃる通り、焼酎製造工程では麹、麹と酵母を混ぜた酒母など生きている原料に向き合うため、自動化された大規模の生産工場においても、熟練した醸造家の技や五感が必要になる部分が大きいそうです。また日々変化する気温や湿度などの外気環境に合わせて麹の生育状態や加える水分量などを詳細にコントロールするためには、 知見やフィードバックの積み重ねが鍵となります。大規模な設備投資による自動化が進む一方、伝承されてきた杜氏の技と情熱が今も息づく工程です。

サンプリング計測からインライン連続計測になったアルコール濃度検出プロセス

ヴァイサラの屈折率計は、減圧蒸溜後のアルコール濃度(度数)検知の目的で、蒸溜が行われる蒸溜機の出口に設置され、インライン濃度測定が行われています。

焼酎の製造工程において、蒸溜を停止するタイミングは非常に重要です。蒸溜の初期、中期、後期では味が全く異なるため、好ましい味に仕上げるには 適切なタイミングを逃すことができません。停止する時間の遅れは酒質に大きく影響を与えます。一方、停止時間が早過ぎるとアルコールの収得量が不十分になります。

インラインでの屈折率によるアルコール濃度計測の導入以前は、バッチが終了する間際に、数回のサンプリング分 析が必要でした。このため蒸溜の停止 タイミングが近づいた際には常に担当者が現場に張り付いて作業する必要がありました。この作業は製麹、酒母発酵、 2次発酵と約一か月に及ぶ長い工程を経た後での失敗が許されない重要な作業ですが、個々の担当者のサンプリン グ測定が酒質やアルコール収得量に直 接影響を与えます。常時監視の正確な数値管理が可能になれば安定した品質につながることは明白でしたが、このためには多品種の原酒にも対応できる高精度の計器が必要とされていました。

高精度のヴァイサラ屈折率計 との出逢い

2020年、ヴァイサラは屈折率計での計測結果をもとに工場の焼酎アルコール濃度についての検量線作成を提案しました。 当時、工場にとって屈折率計でのアルコール濃度の検出は新しい計測法であったため、戸惑いがありました。

初めてこの説明を受けたときは正直、屈折率とアルコール濃 度の相関はない、或いは検知は 難しいと感じていました。焼酎 に含まれる成分の99%は水とエタノールと言われていますが、残り1%(微量な香気成分)の差で明確な酒質の違いが生じます。 この1%の差が屈折率に大きく影響を与えるのではないか、リニアに検知ができるのかと懐 疑的でした。」 同工場高橋伊織様

しかしヴァイサラが事前に行った検量 線作成では、工場にてご用意いただいたサンプルと、ヴァイサラ屈折率計の 屈折率指示値に相関性があることを確 認いただきました。このデータに信頼 性があったため、その後プロセスライ ンに実機を据え付けたオンサイト試験を実施されました。1か月にわたる試験結果でも、精度よくこの相関関係が確認でき、実際の現場でも運用できる ことが検証されました。

また懸念していたプリズムの汚れや、それに起因する精度の低下なかったことから、プリズムの自浄作用も確認できました。「自浄効果が確認できなかった場合、付帯設備で計器のCIP洗 浄設備の導入も検討していましたが、その必要もなく、設備投資額を抑えられたことも大きな導入の要因となりました。」 同工場 高橋伊織様

  • 焼酎生産へのインライン屈折率計導入のメリットサンプリング作業効率性の向上と自動化推進
    サンプリング後のラボ分析からインラ イン計測に切り替えた後、品質向上、コスト面での明確なメリットが確認されました。「一番はサンプリング作業の効率化です。サンプリング分析では蒸溜が終了する約20分前から担当者は現場張り付きになります。1日2バッチを蒸溜すると 考えると20分×2回=40分/日 の作業効率が向上しました。現在ではヴァイサラ屈折率計の計 測数値を基にした制御が運用され、蒸溜停止工程はほぼ自動化されています。」 同工場 高橋伊織様
  • 安定した品質向上
    品質管理の面では、屈折率計の計測数値という明確な基準があるため、人による蒸溜終了タイミングのムラが改善され、より安定した品質を維持しそれが数値データとして担保され分析もできるようになりました。
  • 複数の製造銘柄のラインで利用可能
    ヴァイサラのエンジニアは計 測用途に適合するようサポートしてくれるので、自社のプロ セスに最適化された計測機器となっています。今後新規原酒や蒸溜方法が増えた際により多くの検量線をカスタマイズできればうれしいです。」 同工場 高橋伊織様
  • メンテナンスフリー
    蒸溜工程中のリニアな計測は、測定対象のアルコール度数の変化や流量の変 動、気泡の混入などが起因し、一般的に計測の誤差が発生しやすい環境です。 他の測定方式や他社の屈折率計では正確に計測できないケースも多く発生します。ニッカウヰスキー門司工場でも以前、質量流量計から密度に換算する測定方法を試した際に、蒸溜器からでてくる液中の気泡と流速の変動が多く、 換算したアルコール濃度計測値が安定しなかった経験からインラインによる測定は気泡や流量の変動が起因し難しいであろうと考えられていたそうです。

屈折率計は、気泡の影響もほ とんどなく、計測値も安定しています。また計測値の安定は機 械の制御を設定する際にも大変役立っています。」 同工場 高橋伊織様

運用開始から2年が経ちますが、定期的または突発的に起こる問題やドリフト発生などの大きなトラブルもなく順調にフル稼働できています。

蒸溜後の成分値を毎日傾向分析し、正確に検知されて蒸溜が終了されるよう管理していますが、2年間同じ銘柄の工程で計測数値にぶれがでることはありませんでした。大きなトラブルもなく稼働できているのでラン ニングコストが発生しないことは大きなメリットです。」 同工場 高橋伊織様
 

屈折率の展望性

様々な品種とアルコール度数の相関がとれているので、屈折率は万能だと思っています。屈 折率と対象となる測定物質に相関が取れればあらゆる測定に応用できることに魅力を感じます。」 同工場 高橋伊織様

ヴァイサラは将来的なライン拡大に向 けてお客様からのフィードバックに寄り添い日々改善してゆきます。 衛生面やコスト効率の向上などの理由から、食品や飲料分野では今後さらなる自動化が進むと考えられます。 日本の伝承文化ともいえる杜氏の技や 勘がヴァイサラの先端の計測技術と融 和された時に、余市と門司で芽吹いていた新しい醸造文化のムーブメントが 1世紀を経てまた起こりつつあるのかもしれません。ヴァイサラの計測技術 は今後もインフラから日常生活や文化などあらゆる産業分野を下支えするものでありたいと願っています。

ヴァイサラのインラインプロセス屈折率計について

ヴァイサラのプロセス屈折率計は、広範な分野での正確なインライン液体濃度計測にご使用いただけます。3-Aサニタリー認定で衛生的な加工処理に最適です。また2.5インチ以下のサイズのパイプラインに設置することがで きます。このセンサはパイプのベンドの外側の角に直接斜めに取り付けるか、 サニタリークランプまたはVarivent®接続を備えたフローセルを介して斜めに取り付けます。

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