医薬品の安定性試験

医薬品の安定性試験については、日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)による取り組みが行われ、安定性試験に関する最終ガイダンスが欧州、日本、米国で採択されています。

また、米国食品医薬品局(FDA)は、21 CFR Part 203(連邦規則第21条第203章)の中で、「薬剤の製造業者、公認販売業者、およびそれらの代理店は、すべての薬剤標本を『安定性、完全性、有効性を保持した状態』で保管と取り扱いを行い、薬剤標本に汚染、劣化、および不純物混入がないようにすること」と定めています。

安定性テストチャンバー内においては、温度、湿度、差圧、照明、ガスレベルなどの環境条件のパラメータの制御、監視、および文書化が必要です。試験失敗のリスクを軽減するには、機能性とコンプライアンスの両方に重点をおいて設計されたモニタリングシステムが求められます。必須の機能としては、データロギング、データファイルの自動バックアップ、インターネットによる監視と報告のほか、無線、Eメール、電話、SMSによるアラーム通知などの接続オプション、さらにはデジタル署名、イベントとやり取りの完全な履歴、監査証跡などの多段階データセキュリティが挙げられます。

安定試験環境のモニタリングに使用するセンサは、検証にも柔軟に対応できるものが望ましいです。安定性試験室およびチャンバーの定期的な検証を行う目的は、温度と湿度の分布が試験室内において均等であることなど、チャンバー内全体が判定基準に適合していることを保証することです。

実際に使用するセンサの数はチャンバーの大きさによって異なりますが、多くの場合、検証技師は少なくとも10カ所にセンサを配置します。例えば、チャンバーの4隅に1台ずつ、中央に1台、あるいはそれぞれの棚に3台ずつ、といった配置になります。従来の熱マッピングは熱電対を用いて行われていましたが、現在では最新の技術を利用できます。温度センサと湿度センサを搭載した無線データロガーは使いやすく、設置が安易で、安定性試験室やチャンバー内のマッピングにかかる総時間を削減することができます。

安定性チャンバーの温度および湿度のモニタリングに関する規制ガイダンス

規制当局は、安定性試験チャンバーを利用する場合に以下の基準を満たすことを求めています:

  • 標準作業手順書(SOP)や定期報告書などの適切な文書を整備すること
  • チャンバーと試験室の制御エリア全体に、複数のセンサを均等に配置すること
  • 余裕のある多層式の棚を備えて整然と保管し、制御された環境への適正な露出条件
  • 規制要件を満たす監視機器(プローブやデータレコーダーなど)を使用すること
  • データの連続的な記録を行い、完全なトレーサビリティを有していること
  • 安定性因子が設定閾値範囲を逸脱した場合に是正処置を講じること

さらに、安定性試験には、試験の際に定められた条件から逸脱した場合にそれを検知し、通知するアラーム機能が求められます。製薬会社では、異常状態を検知し通知するための 下記の方法を採用しています:

  • 監視対象の数値が事前に定めた値を逸脱した場合に警報を発する
  • 逸脱条件(通常、特定の時間における一定の温度または湿度)を外れた場合に警報を発する
  • 年間の平均動態温度(MKT)の変動に基づいて警報を発する
  • 警報またはイベントを受け、SMSまたはEメールで警報を発する

米国食品医薬品局(FDA)、医薬品評価研究センター(CDER)、生物学的製剤評価研究センター(CBER)、および日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)は、「業界向けガイダンス:Q1A(R2)新医薬品原薬および製剤の安定性試験」を発行し、新医薬品の原薬と製剤をEU、日本、米国の3地域で登録申請するにはどのような安定性試験データであれば十分かを定義づけることを目指しています。このガイダンスの「一般原則」では、安定性試験の目的は、原薬または製剤の品質が、ある一定の期間において、温度、湿度、光などの多くの環境因子の影響下でどのような影響を受けるかを示した証拠を提出を作成する必要性を満たすことであると記述されています。

また、安定性試験は、再試験期間の決定や、定められた薬剤の製品寿命に対して推奨される保管条件の決定に役立つものでなければなりません。安定性試験に関してもう一つガイダンスを提供しているのが世界保健機関(WHO)です。WHIOは、テクニカルレポートシリーズの一つとして、「原薬および最終製剤の安定性試験附属書2」を発行しています。いずれのガイダンスも、安定性試験プロトコルの設計と実施についての基本方針を示しています。

冗長センサの使用による安定性試験の不正確性リスクの軽減

冗長センサの使用による安定性試験の不正確性リスクの軽減 長期、短期、および加速安定性試験において最も一般的なタイプは、温度、湿度、光を対象としますが、その他にpHや酸化ストレス試験などを対象に含む場合もあります。パラメータによっては、チャンバーや試験室のモニタリングには冗長システムを使用する方が望ましい場合があります。

例えば、湿度センサは(特に長期的な安定性試験の場合)ドリフトを起こしやすいため、第二のセンサを追加することで、センサドリフトの影響によるフィードバック制御システムの歪みを補正できます。製薬分野の専門家と安定性試験技師の多くは、フィードバック制御システムがセンサドリフトを見えなくしている事実を把握していないかもしれません。

ドリフトは通常、システム画面には現れず、システムアラームでも検知されないため、安定性試験、製品品質、または患者の健康が脅かされるまで、問題があることに気付きません。安定性試験でセンサドリフトの影響が深刻になることがありますが、その解決方法は簡単です。 フィードバック制御システムから切り離した独立の監視センサを設置することにより、システムが適切に動作しているかどうかを検証でき、ドリフトの可能性を初期に検知できます。

フィードバック制御システムは、制御対象のパラメータ(相対湿度など)に比例した信号を発するセンサに依存しています。システムは、この信号と望ましい設定値(50%RHなど)とを比較し、自動的に出力を増減して、信号と設定値のギャップを解消します。多くのシステムはディスプレイやレコーダーを備えており、パラメータの測定結果が設定範囲を外れると知らせるアラーム機能を備えたシステムもありますが、これらの機能を同じ制御センサに接続している場合があります。

時を経てフィードバック制御センサが汚染されたり劣化したりすると、その出力信号が仕様の範囲を外れてドリフトする恐れがあります。しかし、信号のドリフトは通常徐々に大きくなるため、システムのディスプレイには表示されず、システムアラームでも検知されません。センサドリフトの進行は、検知できないほど緩慢な場合もあれば、一般的な校正サイクルより早く進行する場合もあります。センサのドリフトが起きても、システムには目に見える変化も兆候も現れないため、業務または製品に支障をきたすまで問題の発生に気付かないことがよくあります。

このタイプのドリフトは多くの種類のフィードバック制御センサに発生しますが、特に相対湿度の測定に顕著に見られます。これは、相対湿度センサの内部構造が周りの環境と直接接触する必要があり、塵埃や大気中の化学物質などの汚染物質に対して無防備なままになるため、時間の経過とともにセンサドリフトが生じることが原因です。わずかな汚染が重大で恒久的なドリフトを引き起こすこともあります。このため、多くの安定性試験の専門家は、監視とマッピング両方の安定性試験において、冗長センサを定期的に採用しています。