小野薬品工業株式会社様｜最適化されたヴァイサラ viewLincの運用 - 室内環境から防爆エリアまで

小野薬品工業株式会社様（以下「小野薬品工業様」）は、1717年の創業以来、300年以上の長い歴史と実績をもつ製薬企業です。創業時から薬づくり一筋に取り組み、「真に患者さんのためになる医薬品を開発して社会に貢献する」事を研究開発の理念としています。創薬方針としては化合物をライブラリーとして蓄積し、その中から疾患や治療に結びつく薬 剤を探し出す「化合物オリエント」という独創的なアプローチで医薬品の研究開発を推進されてきました。現在は医療ニーズの高いがんや免疫疾患、中枢神経疾患を重点研究領域に定め、従来の低 分子や抗体による創薬を強化するとともに、細胞治療や 中分子など新たな創薬を通して、医療現場のアンメットメディカルニーズに即した医薬品創製にも積極的に取り組んでおられます。

同社の重要な研究拠点の一つである水無瀬研究所には、現在、約500名の研究員の方が在籍され、化合物の探索研究、がんや中枢神経領域などの創薬研究、化合物の有効性や安全性確認や、治験原薬や治験薬供給のための量産化やコスト低減研究、治験薬の品質保証等の業務を遂行されています。2016年3月に始動した水無瀬研究所の新研究棟は「ものづくり拠点」として位置づけられ、化合物の合成・分析機能を集約されました。新研究棟の横には臨床試験のための原薬製造が可能な小規模なGMP製造棟が併設されています。

この新体制の始動にあわせて、ヴァイサラの環境モニタリングシステム（以下「ヴァイサラ viewLincシステム」）が、GMP順守と制御環境のモニタリングのためにCMC・生産本部合成研究部に導入されました。

ヴァイサラ viewLincシステム導入へ

小野薬品工業様の合成研究部は原薬の製造方法の研究と治験原薬の供給を担っておられます。ヴァイサラのviewLincシステム導入以前は、cGMP管理が必要な現場では、設置型のペーパーチャート式の温湿度記録計と空調設備備え付けの温湿度記録計を利用されていました。

従来利用していた空調設備備え付けのシステムでは、閾値の逸脱時には警報を発することができましたが、センサの設置場所は、事前のマッピングバリデーションを有効に活用した配置ができず、設置後のセンサの移動も基本的に容易ではありませんでした。このため、湿度温度の閾値逸脱のリスクがワーストポイントなどの注意が必要な箇所に任意で設置し計測することができませんでした。

また、空調設備のない場所では、スタンドアローンのセンサを設置して、ペーパーチャートでデータを記録していました。スタンドアローンのセンサは、移動が可能なメリットがあり、ワーストポイントの湿温度計測は可能でしたが、異常時の警報がなく、逸脱の発生直後に事態を把握することができないという問題がありました。このため、この2つのモニタリング方法の課題を全て克服でき、全ての管理エリアが標準化され、統合された湿度温度モニタリングシステムの運用を模索していました。

同時に、温湿度モニタリングのシステムを導入するにあたり、電子記録について米国食品医薬品局（FDA）や厚生労働省「コンピュータ化システム適正管理ガイドライン」などのcGMP監査に確実に対応できるシステムであることが必要条件でした。当時の合成研究部では、コンピュータシステムバリデーションの経験が浅く、適切なDQ、IQ、OQの計画・実施記録を作成するためには、システムベンダーのサポートが必須と考えていました。新しいシステム導入にあたっては、当初数社のシステムが検討されたそうですが、ヴァイサラは当時から定期的にウェブセミナーやセミナーを開催し、温度マッピング等のGMP遵守に関する見識や資料も豊富に保有しており、サポートについては十分に信頼できると感じられていました。また、海外で広く採用されているヴァイサラのシステムであれば、海外からのcGMP監査でシステム概要を説明し易いことも重要な動機付けとなりました。

また、導入後も、ヴァイサラ viewLincモニタリングシステムを用いたcGMP対応へのノウハウを自社のCSV知識の向上に役立てられています。ヴァイサラのセミナーにも定期的に参加され、ヴァイサラがcGMPの現場で培った欧米の情報も積極的に取り入れられています。

導入後に実感されたという、空調制御システムとviewLinc システムの併用のメリットも次のように述べられてい ます。

「ヴァイサラ viewLincシステムは従来から運用している空調制御用の温湿度の計測ポイントとは別に、温度マッピングのワーストポイントで温湿度を測定することができ、時期や目的に応じて測定ポイントを移動できるメリットが大きい。制御システムの故障等による停止時でも、ヴァイサラ viewLincシステムで独立して温湿度記録を継続できることももう1つの理由です。一方で、制御システムの温湿度記録はバックアップとして利用できます。」

合成研究部　プロセスエンジニアリンググループ グループヘッド 長谷川　知之様

運用

小野薬品工業様では、新体制の下ヴァイサラ viewLincシステムをこれまで3年間以上、検体保管室、小分け室、防爆冷蔵庫、製造室を含む全8室で運用されています。

導入以前は毎週、保管管理責任者が倉庫を巡回し、ペー パーチャート式の温湿度記録計の記録状況が定期的にチェックされているかどうか、記録紙を目視でチェックし、温湿度逸脱がないことを確認していました。記録紙交換、イン ク交換は研究員の人的な労力を介していました。また、機械的な不具合による、記録途中の紙詰まりやペンのインク漏れ等も発生していました。記録ができない状態となっていても、気づくまでに数日経過している場合もあり、逸脱が発生した際には、過去の状況を振り返る必要があり、この状況調査・原因調査・再発防止・記録作成等には研究員が多くの時間を費やしていました。

cGMP監査時には温湿度の記録データを提出する際は、ペーパーチャートの記録紙を折りたたんで保管室に保存していたものを取り出して提示していましたが、原紙の保 存は経年劣化も発生し、適切なデータを調査し探し出すまでにも一定の時間を要していました。しかしヴァイサラ viewLincシステム導入後は、温湿度記録が、自動レポートで作成されるため、監査時には適切なデータを瞬時に示すことができます。

作業効率の改善
また研究者の作業環境の観点からも効果を上げています。温湿度の変動が担当者の席からリアルタイムに確認できるため、異常・逸脱の確認を業務上の負担なく行えることで、研究 者の方が安心して研究に取り組む環境づくりを提供できるようになり、生産性の向上に役立っているそうです。

定期的なレポート作成作業に関しても、以前の手動の運用と比較すると、自動化されたレポート作成機能があるヴァイサラ viewLincシステムは規制環境下における信頼性が高く、現在では8室で運用され、圧倒的な効率化が図れたということです。月次レポートも期間を設定するだけでレポートが自動印刷できるようになりました。各部屋毎の月次レポー トも約15分で終了します。

データインテグリティの向上
データ保全も大きく進化しました。 

以前のペーパーチャート方式ではデータ記録は原本上にしか存在しないため、データのバックアップをとるためには、全期間のコピーを作成する以外の手法がありませんでした。現在運用中のヴァイサラ viewLincシステムでは、自動的にログが記録されるため、外付けハードディスク及びDVDへのバックアップを含めても、30分以内でバックアップ作業が完結します。また、コンピューター外に過去データがバックアップされていることは有効な災害時対策であると感じられているそうです。

また、データインテグリティの観点からは操作のログがすべて記録され、改ざんができない点もcGMP準拠を遂行する上で役立つと実感されています。

「新研究棟の完成から3年が経過しましたが、その間にも各種ガイドラインの要件は厳格化されてきており、ヴァイサラ viewLinc システムをいち早く取り入れたことはよい決断だったと思います。」

合成研究部　プロセスエンジニアリンググループ 保管管理責任者　 荒谷　祥之様

管理ゾーンの用途別の運用

室内環境　HMT140 Wi-Fiデータロガー
製造室、小分け室、検体保管庫室、倉庫内等の室内環境ではヴァイサラのHMT140 ワイヤレスデータロガーが使用されています。小野薬品工業様では、倉庫内は国内外のガイドラインに対応可能な温度管理（+15～+25°C）がなさ れています。倉庫・保管場所のワーストポイントにおける温湿度を、研究所のワークスペースで常時リモート監視することにより、数箇所の倉庫の複数の計測ポイントまで出向いての確認が不要になりました。製造室や検体保管庫等の温湿度のモニタリングも担当者の席から一括管理され、毎月の湿度、温度の推移もログとして自動的にシステム上に記録されます。

ヴァイサラ HMT140 Wi-Fi データロガーは本体にバッテ リーが搭載され、温湿度が表示されるワイヤレスロガーです。配線不要なため、保管倉庫などの広いスペースでの利用に適し、場所を選ばす設置が可能です。ワーストポイントは季節や期間によって変動する可能性があるため、移動が 可能なヴァイサラHMT140はメリットが大きいそうです。ワークスペースの担当者の席で異常の予兆を検知したら、現場に行って空調制御の温度設定を変更するアクションをとることが可能になります。

ヴァイサラ viewLincシステムには、アラーム通知機能があり、任意の閾値を設定し、ユーザー設定が可能で多様な通知オプションによって、EメールやテキストでPCや携帯電話にアラームを送信できます。実際、閾値逸脱時のアラームにより保管庫の異常を迅速に把握でき、温度逸脱の影響を最小限に抑えられた事例もあり、研究員の方々も、アラーム機能があるシステムへの安心も実感されているそうです。

また、データロガーの履歴はviewLincサーバーおよび計測地点の各データロガーのメモリに保存されるため、冗長性がある記録の保存が可能になり、予測できない停電時等の事象には、データのバックアップも担保できます。2018 年の大阪府北部地震の発生時には停電による通信装置の不具合によりデータがサーバーに送信されていない期間もロガー内に記録されていたため、復電後にデータを回収し欠損が回避できたこともあったそうです。

危険区域の管理 HMT363　
本質安全防爆構造 湿度温度変換器
また、危険物倉庫では、最も高い危険度レベルに分類される防爆ゾーンにも対応できる、ヴァイサラ HMT363 本質安全防爆構造 湿度温度変換器を使用され、ヴァイサラ viewLincシステムで温度をモニタリングされています。防爆冷蔵庫及び防爆冷凍庫では、ヴァイサラのHMT363をバリヤ経由で4つの入力チャンネルを持つDL4000 汎用データロガーに接続し、システムに統合して管理されています。ヴァイサラのHMT363プローブはロガーの設置場所から離れた場所でも計測できるようにプローブの長さを選 択できるため、冷蔵庫、冷凍庫のような狭い空間での使用にも適しています。以前、防爆冷蔵庫の冷却機の室外機が異常停止した際にはSMSによるアラームにより、温度変動をリアルタイムで検知し、管理値上限を超える前に保管品の移動ができたため、温度逸脱を発生させずに済み、保管品の品質への影響を抑えることができました。

精度への信頼性

貴重な検体等の保管業務には、計測機器の精度の維持が大変重要ですが、小野薬品工業の合成研究部様ではヴァイサラのロガーの温度精度にもご満足を頂いているようです。

「ヴァイサラのロガー精度は、整数の精度（± 2℃）で対応していた過去と比べれば、十分な精度であると考えます。保管庫の温度が ±0.1℃単位の精密さで測定・記録できるため各部屋の管理の維持に大変役に立っています。ペーパーチャートのころと比較すると格段に精度の良い管理ができています。また管理値（整数）に対して適切なアラート値（小数）を設定できるため、精度よくアラート管理できます。」 

合成研究部　プロセスエンジニアリンググループ 保管管理責任者　 荒谷　祥之様

サービスと校正についてのベストパートナーシップ

小野薬品工業様では、年に1回、全ての計測機器をヴァイサラの校正室で複数の校正ポイントに用いて定期校正するために、予備器を準備されて計画的な校正を実施されています。また、導入時には、施行を担当された専門の施行業者様が全てのアクセスポイントで電波確認をされるなど、事前の環境整備にも細やかに対処されていました。このよう な細やかなメンテナンス管理の実行が小野薬品工業様のヴァイサラ viewLincのモニタリングシステム運用の好環境維持につながっているようです。逸脱や不具合の可能性はゼロにすることはできませんが、事象が起きた際のシステムベンダーとの連携やその対応もとても重要だと考えておられます。

長年にわたるviewLincシステムの開発は、私共にモニタリングシステムの有効性についての豊富な実践の場を提供し、同時に日本国内での運用サポートの能力向上のために活かされます。ヴァイサラはユーザー様の日々のニーズを理解し、viewLincシステムを随時向上できるよう努めています。

エンジニアがお客様のご要望に十分お応えすることができなかった点はソフトウェア、ハードウェアの開発チームへフィードバックしシステムの改善に役立てています。このような経験と知識が、国内のユーザー様の現場での運用にさらに生かされ、今後も日々進化できるよう努力を続けています。

「システムベンダーを選択する際に重要なことは、ベンダーとして機器の異常を見逃さないこと、機器の異常に対して早急に対応すること。それを通じて信頼に値する業者である事だと考えます。ヴァイサラのサービス担当が、データロ ガーの異常を発見し、当社に報告し、その後の早 急な対応で助けられた案件もありました。」

合成研究部　プロセスエンジニアリンググループ グループヘッド 長谷川　知之様

長谷川 知之様＆荒谷 祥之様

「新しい環境モニタリングシステムも含め、研究と言う意味では、最先端なことをやっていく必要があるので、イノベーテイブなことには目を向けていかなくてはなりません。cGMPとの両立は難しい面もありますが、コンピュータのデータも、近年はその管理の一部となってきています。両方のベストバランスをみつけながら進めていく必要があると思います。」

合成研究部　プロセスエンジニアリンググループ 保管管理責任者　 荒谷　祥之様

小野薬品工業様｜導入前の課題とviewLincシステムの機能とメリット

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