アプリケーションノート

チャンバーのバリデーション/マッピングの8つの手順

Placing a logger

環境チャンバー内の状態を定期的にマッピングすることは、温度などの(時には湿 度も)状態のバリデーションが義務付けられている、米国食品医薬品局(FDA) などの規制対象アプリケーションのコンプライアンスにとって非常に重要で す。1、2、3、4、5 このアプリケーションノートでは、バリデーションプロジェクトの 現行適正製造基準(cGMP)要件を満たす上で役立つ、いくつかの方法をご提案 します。

注記:当アプリケーションノートの記述では、プローブ、センサ、データロガーをそ れぞれ読み替えることが可能です。これらは大まかなガイドラインであり、提案の大 半はデータロガーを検出装置として用いた場合に基づいています。

ライフサイエンス

バリデーションにおける 8つの手順

  1.  バリデーションプランの作成
  2. 機器および文書の確認
  3. 機器の動作確認
  4. データロガーの設定
  5. データロガーの設置 
  6. 経過の定期的なチェック
  7. データの回収および保管
  8. 確認事項の報告

手順1 : バリデーションプランの作成

まず、バリデーションの目的を書面で定義 し、採用する手法の概要をまとめ、予想さ れる課題を列記します。多くの場合、これら 3項目でバリデーションプロトコルの大半 が作成されます。下記は、バリデーション プランの一環として書面に盛り込むのが 望ましい項目とその回答です。

準拠すべき規制および要件
施設の品質ガイドラインに記載されてい る規制(例えば、CFR 210、211など)のレ ビューから着手し、最近変更・更新された 項目がないかどうか確認します。多くの規 制機関は制御する空間の温度マッピング を義務付けているものの、特定の手法を 指定していないため、マッピング手順の文 書化と正当性証明の責任は各自にゆだね られています。

モニタリング/マッピングに 必要なデータ測定箇所数
環境、温度/湿度範囲、アプリケーション などの要因の数によって、必要となるデー タ測定箇所の数は異なりますが、小規模な チャンバーのマッピングに通常用いられる 測定箇所数は以下のとおりです。

  • 9箇所:ごく小規模なベンチトップ型アプ リケーションを除いて、たいていチャンバ ー内のサンプリング場所は最低9箇所で す。ロガーを、四隅の近くに1個ずつ、計4 個の2層にし、中央に1個を設置します。
  • 15箇所:四隅の近くに1個ずつ、計4個中 央に1個の配置を3層に設置します。
  • シェルフ1つにつき4~5個のロガー。

各データロガーの設置場所
均等な格子状にロガーを設置することをお 勧めしますが、熱損失や空気の動きを考慮 に入れて、チャンバー内で最悪条件のサン プリング場所をモニタリングすることも重 要です。チャンバーの四隅および孔/開口 部をモニタリングすれば、最悪条件のサンプリング場所の大半をカバーできますが、 チャンバー内に棚やラックを取り付ける場 合には、最悪条件のサンプリング場所をさ らに特定する必要があります。温度制御ユ ニット用に、制御センサ上またはその近く にセンサを設置し、チャンバー内にはアラ ームセンサを設置してください。

チャンバー荷重量
稼動性能適格性確認(OQ)についてはチ ャンバーが空の状態で、稼動時適格性確認 (PQ)についてはチャンバーを製品で満 たした状態で、それぞれマッピングを行い ますか?製薬やバイオテクノロジーの多く のアプリケーションでは、どちらの試験も重 要となります。OQおよびPQが、プロセスに どのような影響を与えるか検討してくださ い。また、一部の規制機関2 では、バリデーシ ョンプロセスにおいて最大および最小の荷 重量を使用することを義務付けています。 空のチャンバーは最小の荷重量とみなさ れ、たいていチャンバー内の温度がばらつ く面では最悪条件となります。

チャンバー内の気温と内部生成物の 温度の追跡
内部の製品、例えば溶液ボトル内温度など 内部生成物の温度を追跡する方が意味が ある場合があります。それは扉の断続的な 開閉などの軽微なかく乱の影響からデー タを分離できるために有意義であると考 えられています。

計測パラメータ
チャンバーのマッピングは温度について のみ行いますか?あるいは、温度と相対湿 度を対象にしていますか?湿度感受性の ある製品を保管する予定がある場合、チャ ンバーの温度に加えて、相対湿度のマッピ ングも行うべきです。

サンプリング周期
標準的なサンプリング周期は1分または5分 に1回ですが、バリデーションの他の項目と 同様に、サンプリング周期の正当性を証明 できるよう準備をしておき、その論拠をプ ランやプロトコルに盛り込みます。

マッピング調査時間
これもまちまちで、正当性の証明が必要な 場合があります。標準的な調査時間は、24 時間、48時間、72時間です。施設のマッピ ングは、1週間、1カ月、あるいはそれ以上の 期間にわたることもあります。実験室規模 のチャンバーやウォークイン型チャンバー の場合は、24時間~72時間で十分でしょ う。しかしながら、温度が施設外部の温度 の影響を受ける可能性がある大規模プロ ジェクト(温度制御された倉庫など)の場 合、長期間の調査が必要になります。大規 模チャンバーでは、施設の所在地における 季節的な温度差に応じて、夏季と冬季の調 査も必要となることがあります。

調査期間
バリデーション試験のスケジュールを事前 に策定することにより、バリデーション担当 者がすべてのデータロガーがデータ収集を 同時にスタートし、同時にストップするよう 設定できます。

試験頻度
初回の認定のみを必要とする業界もあれ ば、温度マッピングの定期的な実施を必 要とする業界もあります。適用される規制 を改めて確認し、試験頻度をバリデーショ ンプランまたはプロトコルに明記してくだ さい。一般的に、初回の認定にはたいてい 空のチャンバーおよび荷重したチャンバ ーのマッピングが含まれており、それ以降 の再認定では荷重したチャンバーのマッ ピングのみが必要とされます。

その他の有用な試験
多くの場合、規制機関は空のチャンバーお よび荷重したチャンバーのバリデーション のみを要求します。しかしながら、その他の種類の試験も貴重な情報をもたらします。 以下に、多くの企業で有用とされている、 2種類の一般的な試験をあげます。

  • 温度回復調査 – この調査は、マッピング調査と同一のサ ンプリング場所、同数のプローブを用い て、15秒~30秒間隔で計測します。チャ ンバーの温度が安定しており、データロ ガーがデータを記録している状態で、チ ャンバーの扉を通常利用の際と同じ時 間だけ開けて(実験室規模のチャンバ ーの場合は1分間、出荷/受入区域で使 用される大規模なウォークイン型チャン バーの場合は5分間以下)、その後閉め ます。データ収集は、チャンバーが仕様 の動作範囲に戻るまで続けます。この試 験により、チャンバーの通常運用時に製 品の温度が影響を及ぼさないかを確認 できます。
  • 断熱性/温度変化の調査 – この調査も、マッピング調査と同様の設 定・間隔で計測を行います。チャンバー の温度が安定しており、データロガーが データを記録している状態で、チャンバ ーの温度制御ユニットから電源を取り 外します。データは通常12時間収集しま す。この調査によって、チャンバーが停 電の際にどれくらいの時間、仕様の動作 範囲を維持できるかを把握できます。こ の調査で得られたデータは、停電による 製品への影響を判断するのに用いられ るほか、停電が起きた場合に製品を別 のチャンバーや施設に移送する手順を 策定するのに用いられます。

以上の項目の多くは、過去の事例、プロト コル、標準作業手順書(SOP)によって、す でに対策定められているでしょう。

手順2 : 機器および文書化の確認

適正製造基準(GMP)環境では、チャンバー 適格性確認に使用される機器が、その業務 に適切であるだけではなく、正常運転でき る状態にあることが必要不可欠です。考慮すべき点は以下の2つです。

  • 当該ロガーで、この種のアプリケーション に対するバリデーションを行ったことがあ りますか? 機器メーカーがそのために 据付時適格性確認(IQ)および稼動性能 適格性確認(OQ)バリデーションプロト コルを提供するのが理想的です。
  • ンサは校正してありますか? 校正証 明書(これもメーカーから提供されるも の)を確認しましょう。バリデーションソ フトウェアにも校正の日付情報が表示さ れているはず(各機器のメモリに保存さ れていることが多い)です。熱電対を使 用する場合は、前校正および後校正も必 要です。米国立標準技術研究所にトレー サブル(通常NISTトレーサブルと呼ば れます)な校正済みデータロガーに関し ては、前および後校正は不要です。

手順3 : 機器の動作確認

使用前に破損がないことを確認します。こ の種の確認について定めた標準作業手順 書(SOP)があるかもしれません。ない場 合には、正常な動作を確認する方法がい くつかあります。例えば、データロガーがま とめて保管されており、「データがフルにな れば、古いものから上書きされる」設定にさ れている場合には、データロガーが収集し た情報をPCに転送し、さまざまなデータ ロガーからの指示値を比較します。ロガー がまとめて保管されていない場合には、そ れらの動作を確認する方法として、ロガー を短時間並べ置いて指示値を比較します。 値がずれてしまった機器を使用してしまう リスク最小限に抑えるため、校正を確認す る方法が何通りか考えられます。

標準値と大きく異なる計測指示値など、明 らかな問題の兆候があるかもしれません。 環境が安定している場合は、センサ計測に エラーをもたらした可能性のある化学物 質の汚染を確認してください。ロガーが落 下した場合には、回路の破損という物理的 損傷が原因になっていることもあります。 小さな値のずれが疑われ、原因が明確で ない場合は、ロガーを校正試験室に送らず に手短に精度検査を実施する方法がありま す。参照用に、ロガーを(NISTトレーサブル な)他の校正済みデータロガーまたはNIST トレーサブルな装置本体と比較します。最 後に、疑いのあるロガーを、認定されてい る参考基準(アイスバスまたは飽和食塩水 環境など)と比較することは、その判断が正 しいかのチェックにもなります。

手順4 : データロガーの設定

  • マッピングソフトウェア内で、サンプル間 隔およびロガーの名前に合わせて試験 の開始/終了時間を設定します。
  • すべてのデータロガーを設定設置する 時間が十分に取れ、データ収集が始ま る前にチャンバーが安定するよう、開始 時間を遅らせます。
  • すべてのデータロガーに対して、同一の 開始/終了時間を設定します。開始/終 了時間を同期することで、関係のないデ ータの収集が排除されます。
  • 当該アプリケーションに適切であるサン プル間隔を設定します。ここでも、標準 的で「安全」なサンプル間隔は1分間に1 回です。
  • 各データロガーにチャンバー内のサンプ リング場所を表すIDを付与するなど、各デ ータロガーに有用な情報を記載します。

手順5 : データロガーの設置

バリデーションプロトコルに従って、または 格子状に、センサをチャンバーに設置しま す。ロガーおよび製品の配置を示すため、 チャンバー内部の写真を撮影することも 有用です。(内部センサを備えたロガーでな く)プローブセンサを使用する場合は、それ らがチャンバー内のどの面にも接触してい ないことを確認することが重要です。

周囲温度のモニタリングや、周囲温度およ び相対湿度のモニタリングを行うため、デ ータロガーをチャンバー外にも設置してく ださい。外部の温度が内部の動作に大き な影響を与える場合もあるため、これを怠 ると結果が無効になることがあります。こ のチャンバー外データロガーは、外壁、機 器の発熱部分、窓の近く、交通量の多い場 所など、過度の温度影響を受けるエリアか ら離して設置してください。

手順6 : 経過の定期的なチェック

可能であれば、調査結果を定期的にチェッ クして、マッピングが予定どおりに進んで いることを確認することをお勧めします。例 として、標準的なバリデーションプロトコル では、チャンバー内の温度が安定している時に、調査全体の運営を検証するために、 バリデーションの定期的なチェックを行い ます。フラットケーブルを使用すれば、チャ ンバーに影響を与えることなくロガーのデ ータを定期的にチェックできます。

手順7 : データの回収および保管

調査が完了したら、各データロガーからデ ータをPCに転送します。ファイルの追跡 と、配置した位置との関連付けがしやすい よう、ファイル名のフォーマットをカスタマ イズします。各ファイル名に、データロガー の製造番号、データのダウンロードの日付 および時刻、データロガーのユーザーが付 けた名前といった情報が自動的に含まれる よう、ソフトウェアを設定することをお勧め します。バリデーションソフトウェアの大半 は、米国食品医薬品局(FDA)の電子記録 要件である21 CFR Part 1(1 連邦規則第21 条第11章)を満たすよう、改ざん防止機能を 備えたセキュアなファイルを提供していま す。各ファイルは、ユーザーがプリントアウ トしたファイルをデータロガーのオリジナ ルのファイルと結びつけられるよう、一意で 特定可能である必要があります。

手順8 : 確認事項の報告

マッピング調査の結果を報告する方法がい くつかあります。

  • すべてのデータロガーのファイルを1つの グラフにまとめ、チャンバーのさまざまな 部分の相違を示す。
  • 上記のグラフの補助として、すべての指 示値およびそれに関連した日付と時刻 を元データとしてプリントアウトする。
  • データをExcelにエクスポートし、付加 的な報告書を容易に作成できるように する。

報告書では各データロガーのサンプリング 場所で記録された最高、最低、標準の温度 を特定することが重要です。場合によって は、各サンプリング場所の平均動態温度を 盛り込むことも有用です。チャンバー内のホ ットスポットやコールドスポットには環境モ ニタリング用センサおよびアラームを設置 する必要がありますが、上記の情報はそれ らの場所を特定する上で有益です (3)

注釈

  1. 米国薬局方 「Good Storage and Shipping Practices」 <1079>USP 32-NF 27
  2. 英国医薬品庁(MHRA) 「Rules and Guidance for Pharmaceutical Manufacturers and Distributors」(2007年)
  3. カナダ保健省(ガイド - 0069) 「Guidelines for Temperature Control of Drug Products During Storage and Transportation」
  4. EU欧州委員会 「Annex 15 Guide to Good Manufacturing Practices」
  5. 米国食品医薬品局(FDA)CFR 21 211.142
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